「光を観る、まちを歩く」東村山観光ガイド
観光とは、まちの日常に隠れた「光」を観ること。
東村山観光ボランティアガイドの関澤さんと藤さんが案内するのは、地図には載らない「暮らしの記憶」です。
歴史や文化財を紹介するだけではなく、その場所で暮らしてきた人たちの想いや営みに目を向けながら、見慣れた風景に新しい光を当てていく。
そんなおふたりならではの「日常観光」の楽しみ方を伺いました。

まちの輝きを見つける
ーー 観光ボランティアガイドというと、歴史のお勉強のようなイメージを持つ人も多いかもしれません。
藤さん よく言われます(笑)。でも、僕たちが考えている観光って、ちょっと違うんです。観光って「光を観る」と書きますよね。
僕は、そのまちに根づいている輝きを見つけることが観光なんだと思うんです。
ーー「光」を見つける。
藤さん そうです。道端の花でもいいし、玄関先に置かれた植木鉢でもいい。そういう日常の中にも、その人らしさや暮らしの豊かさって表れているんですよ。だから、「観光地がないから何もない」という話ではないんです。
関澤さん 僕らが大事にしているのは、「現在・過去・未来」という順番なんです。まずは目の前にある今の景色を楽しんでもらう。
そこから道路を一枚めくるようにして、昔の暮らしや人々の想いへと遡っていく。今と昔がつながっていることを感じてもらえたらうれしいですね。
ーー「道路を一枚めくる」という表現が印象的ですね。
関澤さん ガイドって、そのお手伝いなんですよ。見えなかったものが少し見えてくると、帰り道まで違って見えてきますから。
その坂その石にある暮らしの記憶
ーー 先ほど歩かせてもらった「おんだし坂」が印象に残っています。
関澤さん 今はきれいに舗装されていますけどね。「おんだし坂」と口に出して歩いてみると、重い荷車を力いっぱい押しながら、この坂を上っていた人たちの姿が、今の風景に重なって見えてくるんです。
藤さん 国宝だから「正福寺」を案内する、という感覚でもないんですよ。その場所に、どんな人たちの暮らしがあったのか。どんな願いや祈りがあって、それが今につながっているのか。そこに心を寄せることの方が大切なんです。
関澤さん 「大善院」の富士塚もそうですね。昔の人たちは誰もが富士山に行けたわけじゃない。だから自分たちで石を運んで、富士山をつくった。
そういう暮らしの工夫や願いが面白いんですよ。
藤さん 例えば石碑ひとつ取っても、博物館に置けばきれいに保存できます。でも、道端にあって、今も誰かがお花を供えたり、お参りしたりしている。
そうやって想いが途切れずに続いていることにも、大きな価値があると思うんです。
ーー 歴史的価値とは少し違う価値ですね。
藤さん そうですね。ノーベル賞を取ろうと思って研究する人はいないでしょう。国宝になろうと思って建物を建てる人もいない。その時代を懸命に生きた人たちの想いが積み重なって、あとから価値になる。
だから、当時の人たちの気持ちに少しでも寄り添えたらと思うんです。僕らは、そういう物語にも光を当てたいんです。
関澤さん 歴史だけじゃなくて、生活の文化を伝えたいんですよね。

ガイドを続けて変わったこと
ーー お二人は、どうしてガイドを始められたんですか?
藤さん いろんなまちに住んでいたんですが、各地の観光ガイドに参加するのが好きだったんです。そこで「仕事ばかりしていて、自分の住んでいるまちを知らなかったからはじめたんだよ」と話すガイドさんにたくさん出会って。それがきっかけでした。
東村山に戻ってきたとき、市報で募集を見つけて参加したんです。
関澤さん 僕は仕事ばかりの人生だったんですよ。60歳で会社を辞めて、「さて何をしようか」と思ったときに、ちょうどガイドの募集があって。
地域のことを何も知らなかったから、まずは学んでみようと思ったんです。
藤さん 共通しているのは、知りたいってことなんですよ。知れば知るほど、このまちが好きになっていくんです。
関澤さん そうそう。歴史だけじゃなくて、鳥や花や地形や暮らしのことまで、どんどん興味が広がっていくんです。
ーー ガイドをはじめて、ご自身の生活も変わりましたか?
関澤さん 変わりましたね。人とのご縁も増えたし、東村山に根付いた感覚が強くなりました。知っている顔が増えると、郷土愛も自然と湧いてくるんですよ。
藤さん もし引っ越したら、またその土地で同じことをやると思います(笑)。
結局、人が好きなんですよね。この活動をしていなかったら出会えなかった人がたくさんいますから。
人を想うことからガイドがはじまる
ーー これまでで印象に残っている出来事はありますか?
藤さん 数年前、「梅岩寺」を案内したときですね。天然記念物のケヤキを保護するロープの中に、参加者の方が入ってしまったことがあったんです。
後になって和尚さんが怒っていると聞いて、二人で慌ててお詫びに行きました。
関澤さん その足で「豊島屋酒造」に行ってね(笑)。「これからはもっと丁寧にご挨拶しよう」って、お酒を飲みながら話しました。
藤さん でも、和尚さんが伝えたかったのは「入るな」ということじゃなかったんです。枝が折れて参加者に危険が及ばないように、みんなの安全を考えてくださっていた。それを聞いて、なるほどなと思いました。
関澤さん 結局、歴史も文化も人なんですよ。場所を案内しているようで、その場所に暮らしてきた人たちの想いを伝えている。
だからガイドも、人を思うことから始まるんだと思っています。

日常からはじまる観光のかたち
ーー 参加者から言われてうれしい言葉はありますか?
藤さん 「勉強になった」よりも、「楽しかった」とか、「まちを見る目が変わった」ですね。それが一番うれしいです。
関澤さん 「東村山には何もない」って言う人もいますけど、それはまだ出会えていないだけなんですよ。好きな場所がひとつ見つかれば、その人は立派な観光大使です。
藤さん 本当は、ガイドがいない方がいいんです(笑)。僕らの話が頭の片隅に残って、今度はその人が自分で歩いてみたり、誰かに話してくれたりする。
そんなふうに楽しみ方が広がっていったら、それが一番いいなと思っています。
ーー お二人は、本当に楽しそうですね。
関澤さん 楽しいからですよ(笑)。がんばってるわけじゃないんです。
藤さん 夢の中で新しいコースを思いつくこともあるくらい(笑)。好きだから続いているだけなんですよ。

歩けば、まちの光が見えてくる
「だまされたと思って、『おんだし坂』と口に出して歩いてみてください」
関澤さんのそんなひと言から、この日のまち歩きは始まりました。
昨日と同じ道を歩いているはずなのに、少しだけ景色が違って見える。道端の花も、古い石碑も、誰かの祈りも。
東村山には、まだ気づいていない「光」がたくさんあるのかもしれません。
撮影|田島ふみえ(街の写真館 東村山)
